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東京の小鬼たち No.1

 東京の秋山からの電話だった。

 「梅田さん、大竹さんが会社辞めちゃいますよ・・・・・。」

 「えっ・・・・・。 どうして?
 何かあったの?」

 「いやぁ・・・・・。
 ぼくも詳しくわからないんですよ・・・・・。」

 「そっか・・・・・。
 大竹さんは、まだ会社には来てるんだろ?」

 「ええ。 退職日まで、まだ一ヶ月くらいはあるみたいですけど・・・・・。」

 「じゃあ、明日、直接電話をしてみるよ。
 とにかく、連絡してくれてどうもありがとう。」

 そう言って電話を切った。


 どうしたんだろう?

 何があったんだろう?

 考えても仕方がない。

 後ろを振り返って、壁に掛かっている三つの時計を見た。

 真ん中がニューヨークで、左端がロンドン、右端が東京の時間だ。
 ニューヨークが朝の10時、東京は夜の11時だ。

 ちょっと遅いけど、まあいいか・・・・・。

 大竹さんの自宅に電話をしてみることにした。

 「トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・」

 なかなか誰も出ない。

 「トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ トゥルルルル・・・・・ ・・・・・」

 10回以上鳴ってから声がした。

 「はい。 大竹ですが・・・・・。」
 大竹さんの奥さんだった。

 「夜分、失礼します。
 ニューヨーク支店の梅田ですが、大竹さんいらっしゃいますか?」

 窓の外は、良いお天気で明るい。
 目の前には、ニューヨークの高層ビルが並んでいる。

 ビルとビルの隙間から、真っ青な空と白い雲がふわふわと浮かんでいるのが見える。

 昼間はライティングされていないから、削りたての鉛筆をつき立てたような尖ったエンパイア・ステート・ビルも、その形を探さないと、すぐには見つからない。

 時差があるのだから当たり前なのだが、こんなに明るい、こっちにとって朝の時間に『夜分、失礼します』とはすんなり言いにくい・・・・・。

 「すみません。 まだ帰ってないんです・・・・・。
 今日は遅くなるって言っておりました。
 夜、遅くなりますが、帰ったら電話させるように致しましょうか?」

 「ええ、じゃあ、お願いします。
 こちらは日中ですから全然かまいません。」

 「あっ、ニューヨークだから、そうですね。
 じゃあ、帰り次第、折り返させます。」

 「はい・・・・・。 夜分に失礼いたしました。」

エンパイア・ステート・ビルディング
ニューヨーク
エンパイア・ステート・ビル
Copyright:
Photo by“Manhattan Fire Plan”

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