ブラック・マンデー |
Black Monday |
No.24 |
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10月になって、ニューヨークはずいぶんと寒くなった。
「おい、梅田。 タイトニング(Tightening,
金融引締め)のせいで、ダウの動きがおかしくなってるぞ。」
「そうですねぇ。
トレジャリー・ボンド(米国国債)も崩れてますからねぇ。
何だか変ですね。」
デポ市場は、大きく下がることなく、じりじりと上昇を続けている。
取引の参加者が少なくて『出会い』があまりない。
ワン・イヤー・デポのレートは、気配値だけがふわふわとしているような感じなのだ。
9.5%〜9.75%のあたりにいるのだが、実際に取引はされていない。
誰もが【何か、変だ】と感じているのだ。 取引を避けているのがわかる。
「梅田、スリー・クウォーターズ(9and3/4%,
9.75%)は少し『出して』おこう。」
「どれくらい『出しますか』?」
「2〜300本でいいんじゃないか・・・・・。
俺も、もう、あまり自信がないよ。」
「わかりました。 じゃあ、200本 オファーしておきます。」
ところが、誰も『取って』来ない。
また、毎朝、会社に来て、スリー・クウォーターズ(9and3/4%,
9.75%)を200本 オファーすることになった。
週末の金曜日になって、ニューヨーク市場は急に金利が上昇して始まった。
金曜日の朝、うちがオファーを入れる前に、
「ワン・イヤー・デポジット! トレーディド・アト・テン・パーセント!」
(1 Year Deposit! Traded at 10 %!)
とブローカーが伝えてきた。
9.75%を2〜300本『出そう』と毎日オファーしていたのに、いきなりワン・イヤー・デポで10パーセントが『出会って』しまった。
俺は10パーセントが『出会った』と伝えてきたブローカーに、
「アイ・オファー・アト・テン・パーセント・フィギュア!」
(I offer at 10 % Figure!)
10パーセントを『出すぞ!』と伝えた。
他のブローカーたちも、どこかのブローカーで10パーセントがマーケットで『出会った』らしいと、伝えてくる。
俺が毎日9.75パーセントをオファーしていたのを、みんな覚えていて、ビジネス・チャンスがあるだろうと、カマをかけているのだ。
俺は、10パーセントをオファーしているのだが、誰もなにもして来ない。
妙な雰囲気だ。
「マット! ダウ・ジョーンズ・クラシュ!」
(Matt! Dow-Jones crash!)
エイドリアンが大声で叫んだ。
ダウ・ジョーンズが急落している。
ダウが下がれば、デポ金利も下がるはずだ。
米国株式市場が過熱気味に推移していたので、金利を引き締めることで、株式市場の熱狂に水を注そうとしていたのだ。
ところが、金利を引き締めても、株式市場の過熱感に衰える気配がなかった。
金融政策の担当は、むきになってタイトニング(Tightening,
金融引締め)を続けて来た。
ダウが下がったら、タイトニング(Tightening, 金融引締め)をする必要がない。
金利は緩むはずだ。
俺は、まだ、9.75%を『出していない』。
どうせ薄いマーケットの中、みんな、手が出ないで、眺めているだけだ。
今朝の10パーセントだって、「格付け」の悪い銀行が『取った』だけだろう。
実際にどの程度のアマウント(金額)が『出会った』のか、どこの誰が取引をしたのか、わかったもんじゃない。
俺は慌てて、ブローカーのボタンを押した。
「ワティズ・ビッド?!」
(What is bid?!)
10パーセントはうちのオファーだ。 『ビッドは何だ?』と訊いたのだ。
ブローカーは、
「ノー・ビッド!」
(No bid!)
と答えた。
まったく、気配値だけで、センチメント(雰囲気)だけで、ふわふわしているだけだ。
ダウが崩れているから、みんな腰が引いてしまっている。
マーケットにはビッドがない。
誰も資金を『取ろう』としないのだ。
「フィフティーン・オファー!」
(15/16 Offer!)
試しに、1/16低いレートをオファーした。
誰も『取って』こない。
いまのうちに、『出さない』と『出せなく』なるかもしれない。
「セブン・エイス・オファー!」
(7/8 Offer!)
10本だけ『出せた』。
かまうもんか。
「スリー・クウォーターズ・オファー!」
(Three Quarters Offer!)
7/8の次のレートは13/16なのだが、ちょっと乱暴だとは思いながら、俺は3/4をオファーした。
それでも『出せた』のは60〜70本だけだった。
ダウ・ジョーンズは反発することなくずるずると下落し、安値引けとなった。
ワン・イヤー・デポは、うちの9and3/4(9.75%)のオファーにタッチしないで、9and1/2(9.5%)が『出会って』しまった。
今朝、10パーセントが『出会った』ことを思えば、一日で0.5パーセントの急落だ。
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