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第3話 大蔵大臣 |
フォレックス・ディーラー物語 |
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Forex Dealer Stories |
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『あれっ・・・・・??』
叩き続けていた手が空を切った。
突然、扉が開いたのだ。
作業着にヘルメットをかぶって、眼鏡をかけた、大きな、190センチはある黒人の人が手でドア・ノブを引っ張っている。
怪訝そうにこっちを見ている。
俺は軽く会釈をして、笑顔で、俺が知っている唯一の英語で答えた。
「サンキュー・ベリーマッチ。
ふう・・・・・。」
彼も、不思議そうに、俺を見ながら、二度ほど頷いた。
俺は説明したかったのだが、できなかった。
彼は俺に手を振って、廊下を歩いてエレベーターの方へ行ってしまった。
後で考えてみると、彼もまた何をしていたんだろう・・・・・?
「ハァ・・・・・。」
思わず、廊下で溜め息を吐いた。
俺は廊下をエレベーターの方には向かわずに奥に進んだ。
廊下の突き当たりの右にある濃い茶色の扉のノブを回した。
『やっぱり鍵が掛かってる・・・・・。
でも、今度はここで待っていよう。
ここにいれば、必ず誰かが、何かしらの用事で出て来るだろう・・・・・。』
そう思って待つことにした。
すると、すぐに茶色の扉が開いた。
「ハーイ。」
中から、まだ名前も知らないのだが、昨日会った、褐色の肌の若い女の子が扉を開けてくれた。
彼女は、廊下側からオフィス側へ、頭を二回ほど傾けて、中へ入れと言っている。
俺は、笑顔で、また、俺が知っている唯一の英語で答えた。
「サンキュー・ベリーマッチ。」
バック・オフィスを通り抜けて、ディーリング・ルームのガラスの扉を押した。
「おい、梅田!
どーしたんだ?!」
田辺課長が心配そうな顔で俺を見た。
「はぁ・・・・・。
非常階段に閉じ込められまして・・・・・。」
「あぁ・・・・・??」
「はぁ・・・・・。
説明するのが難しいんですが・・・・・。」
「梅田が時差ぼけで寝坊したんだろうと思ったんだよ。
だから、エイドリアンにホテルに電話させたんだ。
でも、梅田の部屋は誰も電話に出ないっていうじゃないか。
ここはニューヨークだから、梅田が何か犯罪に巻き込まれたんじゃないかって、心配してたんだよ。
昼までに何の連絡もなかったら、警察に届けようかって話していたんだ。」
俺は朝早くちゃんとホテルを出たこと、鍵が掛かっていてオフィスに入れなかったこと、非常階段に閉じ込められたこと、非常階段の登り降りで汗をびっしょりかいたこと、ヘルメットのおじさんが非常階段の扉を開けてくれたこと、などを田辺課長に説明した。
田辺課長は笑い転げて聞いていた。
「そっかぁ。じゃあ3時間近くも閉じ込められていたんだ。
そう言えば、梅田に鍵をもらってやるの忘れてたなぁ。」
「・・・・・?」
「ニューヨークは犯罪が多いから、どこも鍵を掛けてあるんだよ。
トイレも鍵がないと入れないんだぞ。」
「えっ・・・・・?
そうなんですか?」
「ああ。
鍵を掛けておかないと、トイレにかってに入って、大きいほうのトイレに隠れてるんだ。
それで、夜遅くとか人が少なくなったときなんかに『ホールド・アップ』ってやるんだよ。」
「・・・・・。」
「ああ、そっか・・・・・。
昨日、梅田は俺とずっと一緒にいたからなぁ。
鍵がなくても気が付かなかったんだ。
じゃあ、後で総務に言って鍵を一式もらってやるよ。」
午後になって、トイレの鍵、24階のオフィスの鍵、25階のオフィスの鍵、それにディーリング・ルームの鍵と四つの鍵をもらった。
午後は、時差ぼけと非常階段で体力を消耗したせいか、ディーリング・ボードに向かって、船を漕いでいた。
ほとんど仕事らしいことはしていない。
『こんなんで、いいのかなぁ・・・・・。』
夕方5時になって田辺課長が俺に言った。
「梅田も来たばっかりだけど、いろいろやるねぇ。
楽しみだよ・・・・・。」
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ニューヨーク 《了》
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「シェア・スタジアム」 |
「ニューヨーク・メッツ」 ホーム・グラウンド |
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