「ニマル・サンマル!」
青山君が、ブローカーさんのボタンを押しながら、ディーリング・ルームにいる、みんなに聞こえるように伝えた。
まだ、ニマル(244.20)がサポートしている。
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このままニマルが割れなければいい。割れないでとお祈りをしたくなる。
そう考えている時に、青山君の大きな声が聞こえた。
「ニマル・ギブン!
ニマル売り!」
「・・・・。」
「梅田さん、売った方がいいですよ。」
「・・・・。」
俺は唇を噛み締めて、
「うん、ちょっと待って・・・・。」
そう答えた。
いま売ると、損が出ちゃう。
244円10銭で2本売ったら、持ち値のアベレージが244円60銭なのだから、
100万円も負けてしまう。
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(244.10−244.60)× 2,000,000 = −1,000,000
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せっかく、昨日とおとといの二日間で上げた、50万円の利益を吹っ飛ばして、トータルでも50万円のマイナスになってしまう。
戻れ!
誰か、買えよ!
買ってくれよ・・・・。
俺の気持ちはマーケットには伝わらなかった。
青山君の、言いにくそうな声が聞こえた。
「イチマル・ギブン!
イチマル売り!」
声を落として、続けて言った。
「梅田さん、切った方がいいよ・・・・。」
「わかった・・・・。」
俺は、『ニッタン』のボタンを押した。
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「もし!
チョード・イチマル!」
「ニホン売った!」
「チョード 2本 ダンです!
244円チョード(244.00)で2本売りました!」
そう話していると、スポットのブローカーのライトが一斉に点滅した。
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青山君の大声が響き渡った。
「チョード・ギブン!
チョード売り!」
また、青山君が声を落として俺に訊いた。
「梅田さん、売りましたか?
もう、スクウェアーになってます?」
「うん・・・・、『損切った』。
もう持ってない・・・・」
「そうですか・・・・。 良かった・・・・。」
チョード(244.00)が割れると、ドルは急落した。
243円50銭も、あっという間に割れて、243円20銭がついた。
落ちる時は、本当に速い・・・・。
チョード(244.00)でいいから、
もう1本売っておけば良かった・・・・。
そうしておけば、今日負けた分も
かなり取り返すことができたのに・・・・。
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絶句して、青山君の声を聞いていた。
夕方になって、平井さんが、俺に訊いた。
「梅田君、今日はどうだった?」
「はい・・・・。
今日は・・・・。
120万円の損です・・・・。」
配置転換になるかも知れない・・・、そう思いながら渋々答えた。
「あっそぅ。」
「・・・・・・。」
あれっ・・・・・?
怒られないんだ・・・・。
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