ブラック・マンデー |
Black Monday |
No.8 |
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10分ほど歩いて「浪速(なにわ)」というジャパニーズ・レストランに着いた。
日本人は海外で生活すると、ことさらに日本食に執着する。
そういう話をこっちに来る前に聞いて、『俺はそんなことないさ』と思っていたのだが、まったくその通りになってしまった。
でも、確かにこっちの食べ物はトゥ・マッチ(too
much)だ。
ステーキにしても、日本で食べるステーキと違って、量が多くて、肉が硬い。
15ドルで、大きな皿に、はみ出すほどのサーロインやテンダーロインが出てくる。
こっちに来たばかりの頃、毎日ステーキを食べた時期もあったが、すぐに飽きた。そうそう肉ばかり食べられるものではない。
イタリアンやフレンチ・レストランでも、「これでもか、これでもか」という具合に料理が出てくる。
とても日本人には食べきれない。
たまに、接待などでそういったところでディナーをとることがある。
アメリカ人はデザートまでちゃんと食べる。
デザートの後に、フルーツとコーヒーを頼んで、ポート・ワインに葉巻をくゆらせるところまでは、とても俺たち日本人には付き合いきれない。
だから、俺はいつもイタリアンとかフレンチの食事の際は、メイン・ディッシュをわざと半分くらい残すようにしている。 もったいない話だ。
でも、「これでもか、これでもか」と出てくる料理を、一緒にいる相手が、何時間もかけて、ずうっと食べているのに、ある程度合わさないとこっちも間が持たない。 |
俺は英語に自信がないものだから、余計にそうだ。
食べている間は英語を話さなくてすむ。
アフター・ファイブにまで英語ってのは、体力・気力が充実していない時はちょっとつらい・・・・・。
今日は、相手が日本人だし、料理も日本食だから気が楽だ。 |
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ジャパニーズ・レストラン「浪速」のドアを押して中に入ると、すぐ左側のウェイティング・バーでビールを飲んでいた中年の紳士が手を挙げた。
「おう! 田辺! 久しぶり。」
「よぉ! もう来てたのか。 早いじゃない?
お前のオフィスはウォール・ストリートだから、俺たちの方が先に着くと思っていたよ。
おい、梅田! こいつが俺の同級生で中嶋だ。
ちゃんと挨拶しろよ。」
「はい。
はじめまして。 梅田です。 よろしくお願いします。」
「中嶋です。 こちらこそよろしく。
名刺はテーブルに着いてからで良いよね。」
中嶋さんは大手都市銀行ニューヨーク支店のチーフ・ディーラーだ。
「焼酎のお湯割、梅干入り」を飲みながら四方山話に花が咲いた。
『へー・・・・・。 田辺課長、嬉しそうだな。
中嶋さんもなかなか立派なひとだなぁ。
田辺さんより貫禄があるなぁ。
今日は付いて来て良かった。』
そんなことを考えながら、二人の会話を聞いていた。
田辺課長が席を外した時に尋ねてみた。
「田辺課長とは、どちらでご一緒だったんですか?」
「あぁ・・・・・。 田辺とは大学のときゼミが一緒だったんだよ。
海外でこんな風に重なると、これも何かの縁だろうと思って、たまに会うようにしているんだ。」
「そうなんですか。
田辺さんて、学生の時からあんな感じだったんですか?」
「いや・・・・・。 大学の時はもっと暗かったけどなぁ・・・・・。
絵を描いていたなぁ・・・・・、田辺は。」
「絵ですかぁ・・・・・。」
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