頭の包帯がとれたころ、小早川が俺のところにやって来た。
神妙な顔をしている。
「梅田さん・・・・・。 ちょっと、ご相談があるのですが・・・・・。」
「どうした? 真面目な顔して・・・・・?
何だ・・・・・?」
「いやぁ・・・・・。 ここでは、ちょっと・・・・・。」
「しゃべりにくい話かぁ?
いいよ。 じゃあ、応接室にでも行くかぁ・・・・・?」
「はい。 今、だいじょうぶですか?」
「ああ。 相場もたいしたことないし、だいじょうぶだろう。
ウシ、ちょっと、頼むぞ。」
俺のアシスタントをしている牛山が返事をした。
「はい。 応接室ですね。
何かあれば、すぐに呼びに行きますから。」
「じゃあ、行こうか?」
「はい。 お願いします。」
ドアを開けて、応接室に入った。
本店は古い建物だ。 前近代的な造りで、応接室の窓は小さい。
だから、なんとなく薄暗い。 入り口のすぐ横にある電気を点けた。
壁には、立派な油絵が飾ってある。
一番奥に大きな机と椅子がある。 その大きな机の上には、電話とガラスの入れ物に入った置時計があって、置時計の回転式の振り子が右、左と動いている。
その大きな机の前にあるソファーに向き合って座った。
普段はそんなに使っていない部屋だから、空気がひんやりとしている。
「どうした、小早川? 何かあったのか?」
「いえ・・・・・。 そうでは、ないんですけど・・・・・。」
「・・・・・。」
「・・・・・。」
「何だよ。 おまえが話さなくちゃ、進まないじゃないか。」
「はい・・・・・。 その通りなんですけど・・・・・。」
「言いにくい、話なのか?」
「はい。 思い切って、お話します。
僕、銀行を辞めようかと思うんですけど・・・・・。」
「あぁ? ・・・・・?」
「いやっ、この会社を辞めようか、どうしようか、迷っているんです・・・・・。」
「・・・・・?」
今度は、俺が戸惑った。
【何で、俺に、相談しに来たんだ?
そういったことの相談だったら、バック・オフィスに直接の上司もいるだろうし・・・・・。
直接の上司に話しにくいのなら、人事部に相談するべきじゃないか・・・・・?】
「いやぁ・・・・・。 小早川・・・・・。
そういった事は、俺に相談するんじゃなくて・・・・・。
佐藤か、人事部に相談したほうがいいんじゃないかぁ・・・・・?
佐藤は俺の同期だから、おまえが切り出しにくいんだったら、俺が口利いてやろうか?」
「いや、それはわかっているんです。
突然、梅田さんに相談するのは、筋違いなのは・・・・・。
すみません。
でも、まだ、入社して日も浅いですから、知っている人も少ないですし、誰に相談すればいいのか、良くわからなかったことも事実です。」
「だから、それは、佐藤か人事部だよ。」
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