「はい。 そうなんですけど・・・・・。
僕は、梅田さん、だったらわかってもらえるかなと思ったものですから・・・・・。」
「・・・・・。」
「入社したばかりで、辞めるって言い出すと、『根気のない奴だ』とか、『今時の若い奴は』、とか思われますよね?」
「・・・・・。」
「僕は、関西出身ですから、大阪支店で採用になりました。
関西だったら、ちゃんと相談できる人もいるんですけど、東京だと知り合いがいないものですから・・・・・。
悩んだ挙句、梅田さんに相談しようと思ったんです。
梅田さんはお忙しい方ですから・・・・・。
この間から時々、梅田さんの様子を見て、ヒマそうになるのを待っていたんです。」
「そっか・・・・・。 わかった。
じゃあ、まあ、いいよ・・・・・。
で、なんで辞めたいんだよ?」
「はい。 けっして、いい加減な考えで、辞めようと思っているわけではないんです。
僕は、オリンピックに出たいんです。」
「あぁ? ・・・・・?」
「何を言っているのか、すぐには、おわかりにならないとは思うんですが・・・・・。」
「ああ。 わからないや・・・・・。」
「僕は、学生時代に『ボート』をやってきたんです。
オリンピックの強化選手に選ばれて、強化合宿にも毎年参加してきました。
大学を卒業して就職を決める時にも、これを期に、『ボート』を辞めるか、続けるか迷ったんですが・・・・・。
いい会社に就職できたので、とりあえず就職してしまいました。」
「ふーん・・・・・。 そうだったんだ・・・・・。」
「ですから、そのときも、とりあえず就職して、日中は仕事をして、仕事が終わってから練習をしようと思ったんです。
そうやって、オリンピックの選考会まで、がんばれば、どうにかなるんじゃないかと思っていたんです。」
「・・・・・。」
「関西地区の配属だったら、もう少し何とかなったのかも知れません。
週末とかには、母校で練習もできますしね。
ところが、東京の配属になってしまいました。
東京でもツテを使えば、どこかしらの大学で、練習できるんじゃないかとも考えていました。
実際にそうもしたんですが・・・・・。」
「東京の大学だと受け入れてくれなかったんだ。」
「いえ。 オリンピックの強化選手でしたから、どこの大学でも喜んでくれました。 『是非、来て下さい』って・・・・・。
ところが・・・・・。 自分の練習に専念するわけにはいかないんですよ。
まあ、当たり前なんですけれど・・・・・。」
「大学生に『ボート』を教えてあげなくちゃいけないんだ。」
「そうです。 そうすると、自分の練習にはならない・・・・・。
よその大学ですから、わがままも言えませんしね。
結局、練習の仕様がないんです。」
「そっか・・・・・。」
「実際に、この3ヶ月で、自己のタイムも悪くなっています。
筋力も落ちているのが自分でわかります。」
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