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フォレックス・ディーラー物語 |
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車に乗ってから、田辺課長が運転手さんに言った。
「運転手さん、じゃあ、まず、グランド・セントラル駅の近くのルーズベルト・ホテルに行って下さい。」
「わかりました。」
「田辺課長、まず、ニューヨーク支店に行かなくてもいいんですか?」
「ああ。
だって、こんなに荷物持って支店に行ったら、後が大変じゃないか。
今日、帰るときこの荷物持ってホテルに行くのか?」
「ああ、そうですねぇ・・・・・」
『なるほど・・・・・。
海外赴任と日本国内の転勤は違うんだ・・・・・。
そっか、日本国内の転勤のときは、こんな荷物ないもんなぁ。』
「田辺課長、この車は支店長車なんですか?
すごい車ですねぇ。」
「いや、違うよ。
これは、『日の丸ハイヤー』といって、日本人が経営しているリムジン・サービスなんだよ。
そうですよね、運転手さん?」
「はい、そうです。
ニューヨークも日本人が多いですからね。
車が必要なときには、日本語で頼めます。」
「へぇ、そうなんだ。
これはアメリカの車ですよねぇ?」
「はい。
キャデラックのリムジンです。」
「・・・・・?」
「梅田、『リムジン』って言うのはねぇ・・・・・、ベンツとかキャデラックみたいな、でかい車を真っ二つに切っちゃうんだよ。
それで、その真ん中に、今われわれが座っているみたいな座席の部分をはめ込んじゃうんだ。
そうすると、足をこういう風にまっすぐ前に延ばせるような長い車になるんだよ。」
「こういうのって、本当に走ってるんですねぇ。
こっちでは・・・・・。」
俺はこの手の車を『リムジン』と呼ぶことを知った。
もちろん、『リムジン』をアメリカの映画などで見たことはあるが、ニューヨークに赴任する際に、自分がそれに乗るとは思い付きもしなかった。
ジョン・F・ケネディ空港の周辺では、このタイプの『リムジン』が珍しくなかった。高速道路を走っていても、同じような車を見かける。
車から外を眺めていると運転手さんが話し掛けてきた。
「私どものお客様は、ほとんど日系企業ですね。
マンハッタンを案内するのに、リムジンを使いたいといったニーズがあるんですよ。
あと、駐在員の奥様で英語が話せない方とか・・・・・。
そういった方が、よく私どものリムジンをお使いになります。
運転手も日本人とは限らないんですが、日本語がわかる者ばかりですよ。」
「・・・・・。」
「梅田は英語はどうなんだよ?」
「いや、全然だめです。
英語がだめだから、中国語をやったんですが・・・・・。
ニューヨークに来るとは思いませんでした。」
「ああ、そう言えば、梅田は中国語の学校行ってたんだなぁ。」
「はい。
まあ、今は全然だめですけど、一生懸命がんばりますから・・・・・。
よろしくお願いします。」
外に住宅街が見える。日本の町並みとは全然違う。
赤っぽい煉瓦の壁が多い。
どの家にも庭がある。
どの庭にも芝生が張ってあり、大きな木が一本か二本植えてある。
ざっと一見しただけだと、全体の町並みは緑色に見える。
日本の家にはこんなに広い庭がなくて、密集しているから、日本であの煉瓦の壁だと、町並み全体が赤く見えるだろう。
「おい、梅田。
これから渡る橋がブルックリン・ブリッジだぞ。
これを渡ったら、マンハッタンだ。」
大きな橋だ。
橋の向こうに高層ビルが数え切れないほど並んでいる。 |
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『ふーん・・・・・。
あれがニューヨークの摩天楼ってやつか・・・・・。』
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