夕方の5時近くなって、田辺課長が俺に聞いた。
「梅田、お前、今日は何も予定ないだろ?
着いたばっかりだし・・・・・。
俺と一緒に来いよ。
これから、ラッサー・マーシャルの武藤さんと飲みに行くんだ。」
ラッサー・マーシャルはニューヨーク市場で一番大きいブローカーだ。
時差ぼけで少し眠くなりながら返事をした。
「はい・・・・・。」
5時を過ぎてすぐに田辺課長とオフィスを出た。
表通りでタクシーを拾い、10分程でレストランに着いた。
レストランの名前は『日本』だった。
外から見ると、あたりのニューヨークのビルと変わらないのだが、中に入ると、まるで日本の居酒屋のようだ。四人掛けのテーブルが10くらいあって、左の奥には襖が6枚ある。たぶん座敷が三つあるのだろう。
田辺課長と俺は、若い日本人の仲居さんに案内されて、左奥の座敷に上がった。
中に二人の日本人が待っていた。
「どーも、田辺さん、お忙しいところを・・・・・。
こちらは梅田さんですね。
初めまして、武藤です。」
「梅田です。
よろしくお願いします。」
「武藤さん、ご無沙汰してます。」
田辺課長が答えた。
先方のもう一人が言った。
「初めまして、栗田です。」
運ばれてくる料理は、まったく日本料理だ。
刺し身もあるし、焼き魚もある。漬物も出る。
日本のビールを飲み、焼酎のお湯割りに梅干しを入れて飲んだ。
最後は暖かい稲庭うどんが、漆塗りの入れ物に釜揚げで出た。
アルコールで時差ぼけがひどくなり、朦朧(モウロウ)となりながら、
『ニューヨークって変なところだなぁ・・・・・。
東京の飲み屋だってこんなに純日本風じゃないぞ・・・・・。』
とぼんやり思っていた。
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