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フォレックス・ディーラー物語 |
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Forex Dealer Stories |
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ファースト・ディール |
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The First Deal |
No.5 |
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9時55分を過ぎて、青山君が、みんなに聞こえるように、一段と大きな声で叫んだ。
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「本日の『ナカネ』、ロクゴー!
238円65銭『ナカネ』です!」
次々と、電話のボタンが点滅している。
点滅するたびに、青山君が必死にボタンを押して、数字を叫んでいる。 |
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その合間に、平井さんも、時々ボタンを押して、何か話をしているのだが、何をしゃべっているのか、俺には、意味不明だ。
10時15分を過ぎると、急にボタンの点滅が少なくなった。
青山君の緊張感が解けてきたのがわかる。
そこで、青山君に声をかけた。
「今だったら、いい?」
「はい。さっきは、すいませんでした。」
「いや、いいよ。
ところで、『ナカネ』って何?」
「『ナカネ』はですねぇ、『公表レート』のことです。」
「・・・・・・?」
そう言いながら、青山君がメモ用紙に『仲値』と書いてくれた。
字は、あまり上手くない。
「『ナカネ』の『ナカ』は『ニンベン』に『中』です。
今日一日、銀行で取引されるドルの基準レートになります。
例えば、今日、梅田さんが銀行の窓口に行って、ドルを買うとするじゃないですか。
すると、この『仲値』に手数料を乗せた値段になるんですよ。」
「ふーん・・・。
じゃあ、さっき、『仲値は238円65銭』って、言ってたよね。
ということは、1ドルを238円65銭で買えるってこと?」
「それに手数料を乗せた値段ですけどね。
銀行が、お客さんとドルを売買するときには、上下1円づつの手数料を付けます。
だから、梅田さんがドルを買うんだったら、239円65銭になりますね、今日は。」
「ふーん・・・。」
「お客さんが、ドルを売るんだったら、237円65銭になります。
相場ですから、為替レートは、常に動いているじゃないですか。
だから、そのリスクを避けるために、1円づつ手数料を付けているんです。
銀行がドルを売るレートをTTS(ティー・ティー・エス)、銀行がドルを買うレートをTTB(ティー・ティー・ビー)と言います。」
「ふーん・・・。」
「ですから、TTS(ティー・ティー・エス)レートは、『仲値』プラス1円、TTB(ティー・ティー・ビー)レートは、『仲値』マイナス1円、っていうことですね。」
「なるほどね。」
「『仲値』は持ち回りで大手都市銀行が決めています。当番が決まっていて、当番の三行が決めるんです。」
「うちは、いつが当番になるの?」
「うちは、都市銀行じゃないですから、仲値の当番はありません。」
「ふーん。信託銀行は違うんだ。」
「何だか、歴史的な背景があるみたいですけどね。」
「そっか。
じゃあ、『テイクン』って、どういう意味なの?」
「『テイクン』は、ドルが買われたということです。
『ギブン』が売られたっていう意味です。
英語の、ギブン(“Given”)・テイクン(“Taken”)ですよ。」
「ギブ(“Give”)・テイク(“Take”)の過去分詞?」
「そうです。」
「『買われました!』とか『売られました!』って、言い難いじゃないですか。慣れるとギブン・テイクンの方が言い易いんですよ。
だから、使ってるんじゃないかな。」
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