ドルを買ってみたら、眠気が飛んだ。
相変わらず、青山君は、ブローカーさんからかかってくる電話をピック・アップして、伝えてくるレートを大きな声で復唱している。
つい居眠りをしてしまったときは、気にもならず、『ああ、青山君がレートを復唱しているなぁ・・・。』としか思わなかった。
レートはいくらだか聞いていなかった。
ドルを買ってみると、青山君の復唱するレートが気になる。
青山君が、またレートを叫んでいる。
「ニーゴー・ギブーン! ニマル‐サンマル!」
えっとぉ・・・、
俺が買ったのは、241円35銭だったのだから・・・、
「ニーゴー・ギブン」ということは、今241円25銭が売られたということだな。
ということは、今、ドルは俺が買ったときよりも10銭安くなっているということか・・・。
それで、「ニマル‐サンマル」ということは・・・、
241円20銭‐241円30銭ということか・・・。
241円20銭が『買い(ビッド)』で、241円30銭が『売り(オファー)』ということだな。
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メモ用紙にボールペンで、
『241.20−30』と書きとめた。
青山君がひときわ大きい声で、
「ニマル・ギブーン!」
と叫んだ。
ドルが売られているようだ・・・。
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何だか不安になってくる。
ドルを買って良かったのだろうか・・・。
青山君の声に集中してしまう。
「ニマル・ギブン!
ニマルデアッテナオカイ!」
んん・・・、何て言ったんだろう?
そう思って、聞き返した。
「今、『ニマルデアッテ』のあと、何て言ったの?」
「ああ、『ニマルデアッテ、ナオカイ』って言ったんです。
『ニマル』が『出合って』、『なお買い』が出てきたってことです。」
「・・・・・・。」
「『ニマル』はギブンしましたけど、『ニマル』は買いが強いみたいですよ。
良かったですねぇ。」
「そっかぁ・・・。」
「『ニマル出合って、なお買い』を英語で言うと、『ニマル・ギブン! ニマル・スティル・ビッド!( “20 Given! 20 Still Bid!” )』って言うみたいです。
『スティル・ビッド』っていうのは、大きな声でみんなに聞こえるように言い難いですから、日本語で『出合って、なお買い』って復唱しています。
まあ、『ニマル』とか、『サンマル』とか、レートが日本語ですけどね。
言い易いように、間違って伝わらないように、言い方が決まってるんですよ。」
「大丈夫かい?
そんなに話していて・・・。」
「ええ、マーケットは落ち着いてきてますよ。
さっき、『ニマル』がギブンしたときは、緊張感があったんですけど、『ニマル』に買いが出てきたら、それ以上、売ってこないみたいですし・・・。」
そう話をしていたら、一番左上の『TFS』のボタンが光った。
青山君が、すぐにそのボタンを押して、
「サンマル・テイクン!」
と叫んだ。
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