内村さんが続けた。
「今日も、ドルが強いでしょうね。
昨日の東京市場で241円台のミドルが底固くなりましたよね。
海外のロンドン・ニューヨーク市場でも、241円ゴマルが割れなくなっていますから、241円ゴマルは、もう届かないんじゃないですか?
そう考えると、242円が割れたところは、もう『買い』でしょう。
ひょっとすると、242円は、今日は割れないかも知れませんよ。」
「そうですか・・・。」
「242円のイチマル(242.10)で少し買ってみて、242円が割れるようならば、241円ハチマル−キューマル(241.80−90)くらいで、『ナンピン』していいんじゃないですか?」
「『ナンピン』って、何ですか?」
「漢字で、『難しい』という字に、『タイラ』と書きます。
『平和(へいわ)』の『平(へい)』の字ですね。」
俺は、机の上のメモ用紙に『難平』と書いた。
俺の字もたいして上手くない。
「これで、『ナンピン』と読むんですか?」
「マージャンの『平和(ピンフ)』の『平(ピン)』ですよ。」
「なるほど。」
「例えば、242円のイチマルで買って、さらに下がった241円キューマルを買うと、平均レートは下がりますよね。この場合、アベレージは242円チョード(242.00)になりますよね。
だけど、241円キューマルが買えるということは、241円90銭まで『相場』は下がっているのですから、実際は負けているわけです。
だから、『難しい平均』で、『難平(ナンピン)』。」
「ふーん・・・。」
「でも、241円のキューマルで買えるかどうかは、わからないじゃないですか。現状はニマル・サンマルくらいですから。」
「そうですね。」
「たぶん今日の『寄付き』は、ニーゴーか、サンマル程度でしょうから、まあ、イチマルあたりは買えるんじゃないかと思ってますが・・・。」
「なるほど・・・・・。わかりました。ありがとうございます。」
「わからないことがあったら、いつでも、遠慮なく聞いてくださいね。
『聞くは、一時の恥。知らぬは、一生の恥。』ですよ、ウメちゃん。」
「はい。」
俺も、いつの間にか『ウメちゃん』にされてしまった・・・・・。 |
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『ウメちゃん』ていうのは、妻の実家で飼っている『狆(チン)』の愛称だ。
『狆』は、そう見えないのだが、純血の日本犬で、家柄があるらしい。
『ハナノキソウ家』(字は忘れてしまった)といったタイソウな苗字を持っている。下の名前が『卯目之介(うめのすけ)』 だから、『ウメちゃん』と呼んでいる。それを思い出して、ひとりで笑ってしまった。 |
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内村さんが、遠慮なく聞いてくれって、そう言ってくれると、質問がしやすいかも知れない。
みんなが忙しくて、わからないことがあったら、訊きにくいときは、内村さんに訊いてみよう。
「内村さんは何て言ってた?」
平井さんが俺に訊いた。
「242円イチマルで買って、241円キューマルで『難平(ナンピン)』しなさいって言ってました。」
「おっ、梅田さん!
専門用語が出てくるようになりましたねぇ。
『難平(ナンピン)』ですかぁ。」
青山君が、ニヤニヤしている。
「言葉が難しいよねぇ・・・。」
「すぐ慣れますよぉ。意味は単純ですから。」
「そうかなぁ。」 |