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 ファースト・ディール
 The First Deal  No.17

 また、スポットブローカーのラインが一斉に光った。

 だが、俺の注文を入れた『コバヤシ』のライトだけが点滅しない。


トウフォレ・スポット・ライン
ニッタン・スポット・ライン
ウエダ・スポット・ライン
ヤマネ・スポット・ライン
ハトリ・スポット・ライン
コバヤシ・スポット・ライン
マーシャル・スポット・ライン
トウフォレ・フォワード・ライン
ニッタン・フォワード・ライン
ウエダ・フォワード・ライン
ヤマネ・フォワード・ライン
ハトリ・フォワード・ライン
コバヤシ・フォワード・ライン
マーシャル・フォワード・ライン
トウフォレ・デポ・ライン
ニッタン・デポ・ライン
ウエダ・デポ・ライン
ヤマネ・デポ・ライン
ハトリ・デポ・ライン
コバヤシ・デポ・ライン
マーシャル・デポ・ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン
内線・外線ライン

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ディーリング・ボード


 青山君の大きな声がディーリング・ルームに響く。

 「イチマル・ギブーン!」

 ちょっと間が空いて、やっと『コバヤシ』の電話が光った。

 俺はあわててボタンを押した。

 「イチマル、1本 ダンです!」

 内村さんの声が大きい。

 「はい! ありがとうございます!」

 俺の声も大きくなっている。さっきみたいに声は低くない。

 平井さんが俺に説明してくれた。

 「『コバヤシ』は、あまり強いブローカーじゃないんだ。
 よそで全部決まったときにも、オーダーが残っていたりするんだよ。
 まあ、ワン・テンポ待てば、誰か気が付いて、いずれ『ダン』になるから。」



 俺は、242円10銭で1本買った。


 内村さんの言った通り、242円チョード(242.00)は、出会ったのだが、割れなかった。


 242円チョード(242.00)が割れたら、キューマル(241.90)で「買い」を入れなくっちゃ、と思って、待ち構えていたのだが、その必要もなく、イチマル(242.10)は、また『買い(ビッド)』になった。

 マーケットに緊張感が漂っているのは自然と伝わってくる。

 青山君の目つきが鋭い。平井さんも厳しい顔をしてロイター・モニターと、ディーリング・ボードを交互に見つめている。

 そうしていると、何かが、ふっと、よぎる感じがした。

 ふわっとしたような、一瞬だけ急に、緊張感が緩んだような感覚だ。いや、緊張感は続いているのだが、緊張感の向きが変わったような感覚なのだ。

 強い風が吹いているときに、急に風の向きが変わることがある。その風向きが変わる、ちょっとした一瞬に凪(なぎ)がある。あの感覚だ。

 ふっと潮目が変わるような、あの情景だ。

 何だろう、この感覚は・・・?


 平井さんが、厳しい顔のまま俺を見た。

 「8時45分だからな!
 また、『仲値』決めの時間だぞ!
 ここから、少し、買い気になるかも知れないからな。」

 そうか・・・。

 時計を見るのも忘れていた。

 俺達、スポット・チームディーリング・ボードの左側に大きなガラスの窓がある。
 その向うは、バック・オフィスだ。このディーリング・ルームで行なった取引の事務処理をしているのが見えた。

 その大きな窓の上の壁に時計が3個並べてかけてある。

 一番左の時計が東京時間だ。真ん中がロンドン時間で、右端の時計がニューヨーク時間を表示している。

 青山君が、プライスを叫んだ。

 「ニマル・テイクーン!」

 内村さんのアドバイスで上手くいったのかもしれない。

 一度、この買ったやつは、『利食い』をしておこう。

 俺は、昨日、あわてて売ってしまったことを思い出した。

 昨日と同じだけ儲けるのなら、20銭高いところで売れば良い。
 だったら、242円30銭だ。

 上手くいったら、内村さんのお陰なのだから、もう一度、内村さんのところで取引をしよう。

 内村さんのボタンを押した。

 「もし! イチゴー・ニーゴー!」

 「梅田です。
 サンマルで『売り』を1本、見てください。」

 また、少し低い声になっている。

 「了解!
 ウメちゃん!
 これ、さっきイチマルで買ってもらった1本の『利食い』?」

 内村さんの声は、少し高くなっている。

 「そうです。」

 「ありがとう!
 『アリがとうならミミズはハタチ!』
 じゃあ、付くように、がんばりますからねー!」

 「はい! お願いします!」

 内村さんは、『寅さん』にも詳しいようだ。


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 『仲値』に向けて、サンマルが出会った。

 なかなか、内村さんの電話が光らない・・・。

 「なっ・・・。
 なかなか来ないだろ?
 内村さんのとこは遅いんだよ・・・・。
 この、ちょっとした我慢がつらいんだよなぁ・・・・。
 もう少し、待てば来ると思うよ・・・・。」

 平井さんが、そう言っていると、
 内村さんの電話が光った。

 青山君が、『KBS』のボタンが光ると同時に、ピック・アップして、俺と平井さんの顔を見ながら、

 「サンマル・ダーン!」

 と言った。


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時計と帽子
第7話 ファースト・ディール
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