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 ファースト・ディール
 The First Deal  No.19

 「はい。
 5本お客さんに売りましたから、5本買わないと『ドルの売り持ち』になっちゃいますよね。
 だから、マーケットでドルを5本買うんです。
 そういうのを『カバー・ディール』って言うんです。」

 「ふーん・・・。」

 「じゃあ、『カバー』取っちゃいますよ。」

 そう言って、青山君がボタンを押しながら、
 「ドル円ファイブ下さい!」
 と言った。

 そのまま受話器を左手で持ちながら、
 「じゃあ、マインです!」
 と続けて言った。

 右手でボールペンをくるくると回している。
 青山君は、図体はでかいけど、手先は器用なんだなぁ・・・。

 そのままボールペンをくるくると回しながら、俺を見て、
 「サンゴーで、5本カバーしましたよ!」
 と報告した。

 「うん・・・。」

 「梅田さん、ボクは『ポジション』を取っちゃいけないんです。」

 「えっ・・・?
 そうなの・・・?」

 「『ポジション』は、『ポジション権限』を与えられたディーラーだけしか持てないんです。
 だから、平井さんが席を外していますから、梅田さんになるんですよ、権限のある人は。」

 「そっか・・・。
 でも、青山君の方が詳しいじゃない、ボクよりも・・・。」

 「はい・・・。
 そうなんですが、ルールはルールですから・・・。
 ボクの立場は、平井さんのアシスタントです。
 だから、平井さんの権限の下で取引をしているんです。
 梅田さんの『ポジション』は3本までですから、どのみち5本だと2本カバーを取らなくちゃいけないんですけど・・・。
 3本までは、梅田さんの判断で『売り持ち』にできるじゃないですか。
 それで、梅田さんの顔を見てたんです。
 どうするのかなって思って。」

 「あぁ、そうだったのか・・・。」

 「梅田さんが、『ショート』にするつもりがなさそうだったので、全部カバーを取ったんですけど、それでいいですよね。」

 「うん。いいよ。
 わかった。」

 平井さんがいないときは、俺がしっかりしなくちゃいけないようだ。



 そのとき、ブローカーさんの電話が光った。

 「ヨンマル・テイクン!」
 と青山君が叫んだ。

 「梅田さん!
 良かったですね!
 カバー取っといて!」

 そう言ってから、さらに大きい声で、ディーリング・ルームに響くような声を出した。

 「現状のマーケット
 ヨンマル・ゴーマル!」



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第7話 ファースト・ディール
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