「梅田君も『大盛り』かぁ。
よく食えるねぇ。
青山が『大盛り』なのは、こいつは、でかいからわかるんだけど・・・。
普通は、『ポジション』持たせると、食えなくなる奴も多いんだけどねぇ。」
「はあ・・・。」
「オレなんか、『ポジション』持ち始めたころは、胃が痛くて、食欲がなかったけどなぁ。
やっぱ、図太いタイプなんだね、梅田君は。」
「・・・・・。」
「いやっ、いいことだよ、それって。
適性があるんじゃないか?」
「はあ・・・。
そうなんですか・・・?」
「いやぁ、梅田さんは、動揺しないからやり易いですよ。
さっきも、カスタマーに『ドル円5本!』って訊かれたときですけど・・・。
平井さんはいないし、梅田さんは、まだ、わからないみたいだし・・・。
ボク、どーしようかと思いましたよぉ・・・。
しょうがないんで、とりあえずボクがクォートしたんですけど、梅田さんは堂々としてましたよねぇ・・・。」
「あっそぉー・・・。
オレがいない間に、そんなことあったんだ。」
「いやー、あん時は、あせりました。」
「・・・・・・。」
「オレがいないときには、梅田君がクォートしてね。
任せるから。」
「はいっ、そう思って、あれからは、緊張して聞いていたんですけど・・・。
平井さんがクォートするレートと、マーケット・レートは違うじゃないですか。
ボクには、ああはいかないですけど・・・。」
「あー、気が付いた?
筋がいいねぇ。
そういったことって、しばらくしてからわかるようになるんだけどねぇ。
すぐには気が付かないんだよね、普通は。」
「それも、お客さんが買ってくる時には、高くレートを傾けて、お客さんが売ってくる時には低くレートを傾けて出しているじゃないですか。
わかるんですか?
お客さんが、売ってくるのか、買ってくるのか?」
「ああ。だいたいわかるよ。
お客さんのネーム(会社名)を聞けば、売ってくるのか、買ってくるのかは、決まってるんだよ。」
「そうなんですか?」
「ああ。
自動車とか、電機だとかの輸出メーカーだったら、だいたい『ドル売り』に決まってるし、石油会社とかは『ドル買い』に決まってるんだよ。石油会社は輸入をやってるんだからね。」
「なるほど。」
「だから、『ドルを売ること』を『輸出予約』、『ドルを買う場合』は『輸入予約』を取る、って言い方もするんだよ。」
「はあー、そーなんですか・・・。」
「ボクたちが取引している『スポット』は、二日後に『決済』されます。
だけど、お客さんの取引は、『足伸ばし』といって、『決済日』を、もっと後の日付に決めるんです。だから『予約』です。」
「『決済』って?」
「ドル資金と円資金を交換するんですよ、その『決済日』に。」
「ふーん・・・。」
「『決済日』のことを、専門用語で、『バリュー・デート(Value Date)』って言います。」
「ふーん・・・。」
「例えば、我々が『ドルを買った』とするだろ?
そうすると、その『決済日』に、ニューヨークのうちの指定した口座にドルが入金されるわけだ。
その代わりに、我々がドルを買ったということは、円を売ったことでもあるわけだから、同じ日付で、相手の銀行に円を支払わなくちゃいけないだろ?」
「はい。」
「だから、相手方の銀行に円を送金するわけさ。
円資金は東京で動いていることになるな。」
「・・・・・・。」
「ドルを買った場合、ドルを受け取るのはニューヨーク時間で、円を支払うのは東京時間ってことになるよな。」
「はい。」
「そこには『時差』があるだろ?
別な言い方をすると、東京時間に、円資金を支払って、ニューヨークが開くまでは、まだ、ドルを受け取っていないという時間帯ができちゃうんだ。
昔、その時間帯に大銀行が潰れて、その銀行から受け取るべきドル資金の回収ができなくなった。
それで、連鎖的に資金が滞って、市場が大混乱をしたことがあったんだ。
ドルを買ったから、円資金を支払ったのに、ドルを受け取れないわけさ。
為替の売買は、取引単位が大きいから、その受け取るべきドルも含めて、口座の残高を管理している。
そのドルを受け取れないから、口座がマイナスになっちゃうんだよ。
ドルの入金がないから、ドルの支払いがあっても、その支払いをストップされちゃうんだな。」
「なるほど・・・。」
「このリスクを、『ヘルシュタット・リスク』って言うんだ。
その潰れた大銀行の名前が『ヘルシュタット銀行』だったらしい。」
「ふーん・・・。」
何だか難しい・・・。
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