1時30分になった途端に、スポットのブローカーのラインが一斉に点滅した。
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青山君が、
「ゴマル・テイクーン!」
「ゴマル・テイクーン!」
何度も、大声で復唱した。
内村さんの言った通りだ!
誰かが『買い』で仕掛けたんだ!
俺は『KBS』のボタンを迷わずに押した。
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「もし! ヨンゴー・ゴーゴー!」
内村さんの声だ。
「イッポン買った!」
「ゴーゴー・1本 ダン!
梅田さんありがとうございます!
すぐ折り返しますから!」
「はい!」 |
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青山君が、声を張り上げた。
「ゴーゴー・テイクーン!
ゴーゴー買い!」
内村さんは売り逃げろって言っていた。
ゴーゴー(242.55)を買ったのだから、少しでも上で売れればいい。
そう思って、また『KBS』のボタンを押した。
「もし! ゴーゴー買い、売りなし!」
「内村さん! ロクゴーの売り1本見て下さい!」
「わかりました! お預かりします!」
青山君の声が、ディーリング・ルームに響き渡る。
「ゴーゴー・ロクマル!」
声を落としてから、俺に、早口で鋭く言った。
「『コバヤシ』のプライスはゴーゴー・ロクゴーで、梅田さんのオファーを内村さんが見てますよ!」
「うん! わかった。」
青山君がまたブローカーさんのボタンを押しながら叫んだ。
「ロクマル・テイクーン!
買い気ですよ!」
また、声を落として俺に訊いた。
「内村さんのところで、ロクゴーで1本売っていいんですね?!」
「うん! 大丈夫!」
そういえば、青山君にゴーゴーで買ったことを伝えていない。
『後場』が始まって、すぐに相場が動き出したものだから、青山君もプライスをみんなに伝えることに集中していた。
俺が内村さんのところで1本買ったことに気が付いていないようだ。
あわただしいと、こういったことになるんだな。
緊迫感がある。
ふと右側を見ると、平井さんが涼しい顔をして、俺と青山君のやり取りを眺めているのに気付いた。
平井さんは、いつも落ち着いているなぁ。
俺が平井さんの方を見たことに気が付いて、平井さんがニヤッと笑った。そして、黙ったまま、青い複写の伝票を俺にくれた。
青い伝票は、ドルを買ったときに起票する伝票だ。
ドルを売った時には、赤い伝票に起票する。
平井さんは、俺がドルを買ったことに、ちゃんと気が付いていたんだ。
「アオは、みんなに聞こえるように、プライスを復唱しなくちゃならないから、忙しいんだよ。
自分のやったディールだけでも起票しておけよ。
あとで青山の事務が楽だし、それを書いて青山に渡せば梅田君が買っていたのが青山にもわかるから。」
「はい!」
なるほど、鋭いな。無駄がないな。
青い伝票を書き込んだ。
「ロクゴー・ダン!」
青山君が、右を向いて、俺の顔を見ながら言った。
それと同時に、俺は青山君に青い伝票を渡した。
青山君は、俺の顔を見ながら、内村さんとの電話を繋ぎっぱなしにして、コンファームをしている。
「売りました、1本! 242円ロクゴーです!」
そう言いながら、右手の親指と人差し指で「OK」のサインを出した。
電話を切りながら、
「このロクゴーの『売り』は『利食い』だったんですね!
わかりました!」
そう答えた。
それぞれのディーラーが、周りの様子に気を配りながら、瞬時に何が起こっているのか判断をしている。
みんなよく見てるなぁ・・・。鋭いなぁ・・・。
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