「相場で一番大事なことは、『損切り』なんだ。
うまくいっている時は、いいんだ。
そういう時は、誰でも適当に売ったり買ったりするんだよ。
ところが、『アゲインスト』になると途端に手が出なくなる。
そういうものなのさ。
そういう時は『損切る』勇気がないとなぁ。
『損切り』をするということは、『相場』に対して判断を持続している、ということでもあるんだ。
『ポジション』を持って『損切り』ができなくなると危ないんだよ。
こうなるんじゃないか、とか、こうなって欲しいとか、自分に都合のいい『願望』になっちゃうんだな。
それで、切らないで持っちゃう。
たまに運良く助かることもあるけど、大抵はそうはならない。
判断はストップしているから、取引はスタックしちゃう。もう手が出ない状態だな。
もう売りも買いもできなくなっちゃうわけさ。
思考もそこでストップしたままだな、そうなると。」
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「梅田君、今日はどうだった?」
「はい!
今日は30万円の利益です!」
「あっそぅ。」
「・・・・・・。」
あれ・・・・・?
やっぱり今日も褒めてもらえないのか・・・・。
20万や30万くらいの儲けじゃ少なすぎるってことなのかなぁ・・・・?
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その翌日は、さらにドル高で相場が始まった。
243円50銭で寄り付いた。
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「寄付き」からドルは買い気であっという間に244円チョードも抜けた。
カスタマー・ディーラーの要求するプライス・クォーテーションもひっきりなしだ。
平井さんが、何度もカスタマー・ディーラーにプライスを怒鳴り返している。
ドルを買う顧客が多い。
ディーリング・ルーム内で飛び交う、みんなの声が大きい。
青山君のディーリング・ルームで叫ぶ声が、少し上ずっている。
みんな、浮き足立った雰囲気だ。
俺も、顔が火照っている。何だか背中が熱い。
それなのに今日は朝から何もできていない。
相場の動きが激しくて、ついていけない。
手が出ない状態って、こういったことを言うのかな・・・・?
何かしなくちゃ・・・・。
気ばっかり焦るのだけれど、どうも考えがまとまらない。
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「『仲値』ゴーマル!
244円50銭が、本日仲値です!」
青山君の大きな声が聞こえた。
そっか・・・・。
もう10時かぁ・・・・。
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『前場』が始まってから、1時間も経つのに、何もできなかったんだ。
まだ、ドルは上がるのかなぁ・・・・。
「ロクマル・テイクン!
ロクマル買い!」
青山君の声が聞こえる。
まだ、強そうだ。
仕方がない、ドルを買うか・・・。
俺は『トウフォレ』のボタンを押した。
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「もし!
ロクマル、ナナマル!」
「イッポン買った!」
「ナナマル、1本 ダン!
244円ナナマル(244.70)です。」
「はい! ありがとうございます!」
244円70銭でドルを買った。
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